「地元優先発注」が不良不適格業者を温存か 奈良市職員アンケートを読み解く
          

フリージャーナリスト 浅野 詠子 


 国が長年にわたり奨励している公共工事の地元優先発注をめぐり、そのマイナス面を放置し続けると、不良不適格業者の温存につながるおそれが強いことが奈良市の職員アンケートからわかった。設計書を見ることなく応札したり、現場代理人を置かないなどはざらで、丸投げ(一括下請け・上請け)も常態化するなど、地元業者の育成とは無関係な不正入札や工事の安全を妨げる慣行が、過去の歴代市政のもとで横行してきたようだ。
 アンケートは奈良市入札制度等改革検討委員会が2010年11月、インターネットで公表。1655人を対象にし、3400人が回答、59人の職員が具体的な意見を述べた。地元優先発注は、国の会計法令などに根拠を置き、前の自民党政権が閣議決定し、工事の発注原則の一つとして確立。長年にわたり、自治体の発注に影響を及ぼしている。
 奈良市の大半の工事も、市内に本店をおく業者が主に受注。同じ市内でも工事現場に近い業者が受注できるよう、市は過度な地域要件を設定してきた。職員が寄せた回答によると、暴力まがいの公務執行妨害の実態が浮き彫りになり、「工事の検査を職員が行うと、業者からのどうかつや議員の介入などで実施できない」という場面があった。
 また、「図面や設計書などを把握せずに入札に参加する業者がいる」など、施工能力に乏しい業者が応札できる仕組みがあるようだ。落札後に「金額が合わない」などと申し出る業者が後を絶たないらしい。
 さらに、「現場代理人が常駐していない」、「専任の技術者いない」など法令を順守しない施工が横行。建設業法に抵触する丸投げは常態化しており、入札に参加して札を入れるだけで、工事を受注した後はピンはねをして一括下請け・上請けにまわす「ネクタイ業者」という呼称が、アンケートには何度か出てくる。
 警察との連携を望む深刻な声、自由競争以外に解決はないとする切実な意見もある。国がすすめてきた地元優先発注は、入札制度と工事の検査方法を改革しない限り、地元業者の育成はおろか、不正のるつぼと化すおそれがある。過去の奈良市の歴代市政においては、市道工事などの工区をいたずらに細分化し、多くの地元業者にまんべんなく発注することが頻繁に行われ、工事の品質向上やコストの削減は二の次だったと見られる。
 このたびの市の職員アンケーでは、この5年間、市議から圧力や介入、口利きを受けたことがあると回答した職員は43人。このほか、県議から8人、国会議員からは6人という生々しい実態も明るみに出た。工事の談合体質とも決して無関係ではないはずだ。こうした「議員圧力」の現実は、回答した職員の比率から見れば、氷山の一角の数字とも考えられるが、勇気をもって誠実に回答した貴重な記録だと言える。
 公共事業と議員の関係について筆者は90年代から取材・報道を続けており、今回の職員アンケート結果を読んで、議員の所業については正直、大きな驚きはなかった。だが、一番、ショッキングに感じたのは、「下の職員が正そうとしても押さえつけられる」など、保身に凝り固まった市の管理職たちの姿である。「力ある者に媚びて肥え太ろうとしている」、「強い者に弱く、弱い者に強く、奈良市の職員なんてそんなものでしかない」、「丸投げ(一括下請け・上請け)などを上に報告するほどいやがられた」など、これでもか、というほど出てくる。
 地元優先発注は本来なら、地域社会に貢献できる人と企業を育てるはずだ。まちづくりには優秀な建設業と不動産業の知恵と技術が欠かせないといわれる。しかし、これが悪く出ると、不良不適格業者の温存につながる。さらに議員の不当な圧力、そして不正を不問にする管理職の態度が深刻である。これでは官制談合の観点から奈良市の工事を疑わざるを得ない。住民、納税者が被っている実害をくわしく検証する必要がある。

        

(初出 2011年1月1日付「ニュース奈良の声)

 

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