講演大要(抜粋) ○…住民参加の課題を公文書リテラシーの観点で探りました…○

2010年5月15日

「情報公開でひらく自治体の未来」

          

フリージャーナリスト 浅野詠子 
                (奈良県市民オンブズマン総会・記念講演) 

  

■加工されていない「原情報」

 情報公開制度のもっとも大きな特徴は何だろうか。それは加工されていない行政の「原情報」が、住民や納税者の目の前に開かれることだ。それもたった一人で行う開示請求によって、知ることができる。
 その加工されてない行政文書を、いかに主体的に読み解いていくか。それを「行政文書リテラシー」とでも呼んでみたい。
 したがって、国政であれ自治体であれ、代議士や首長、官僚らが表現する「情報提供」というものは、「情報公開」と言葉は似ているが、双方を厳格に区別して考えたい。そしていずれも住民参加に大切である。そんな視点をもちながら、本日は話をしたい。
 たとえば新聞記事を例にとってみる。ある行政の問題について、鋭く書かれた記事であっても、読み手の私にとっては「二次情報」である。もっと深く知りたい、これからの取材に活用したいと思うときには、私は一から関連の情報を公開請求することがある。そうすることによって、受け身の読者であった私が、主体的なかかわりをもつことが可能である。フリーになった今も、情報公開制度は、取材活動におけるひとつの大切なツールだ。
 これまでの取材で、公共事業をテーマにする機会は多かったが、談合事件だけでなく、虚偽の工事実績の申請問題も取り上げている。地方紙の記者時代には、奈良県が発注した板屋ケ瀬橋の橋梁工事の問題を取材した。入札条件として、同種の橋げた工事の実績が必要だったが、橋の工事などろくにやったこともないような業者が構成員のJV(共同企業体)が、あわや落札する寸前という状況を報道したのだ。
 これは大和川に架かっている橋を四車線化する工事だったが、国の工事でも最近、実績を偽って入札に参加した業者が落札した問題が明るみに出ている。国土交通省の大和川工事事務所が発注した地滑り防止工事であり、昨年9月22日付朝日新聞で知った。あの板屋ケ瀬橋をさらに下流に下った亀の瀬というエリアだ。
 一体、どのような虚偽申請だったのか。情報公開法に基づいて関係文書を開示請求することにした。このとき一番欲しかった虚偽の申請書類の部分は残念ながら、「秘匿すべき技術資料である」と国が判断したため不開示処分になってしまった。そもそも業者は国を欺いて入札参加の許可を得たのであり、その関係資料を秘匿する必要があるのか、疑問に感じた。
 しかし、最初は新聞の一読者として問題を知った私自分が、こんどは情報公開制度を利用する当事者として、「技術資料の不開示」という局面に突き当たり、主体的なかかわりが深まっていく。こうなると、もはや受け身の読者ではなくなり、国の情報公開制度についてあれこれと考えるようになる。

■安易な「文書不存在」
 
 この一例をもっても、情報公開制度のありがたさを伝えることができるが、求めている文書が「ない」と通告されてしまうと、一般の市民はなすすべがない。果たして本当に存在しないのか、疑わしいと思っても、役所の書庫などに強引に立ち入ったり、関係書類を押収するなんてことはできない。われわれは国家権力ではないので、当然のことだ。ジャーナリズムにしても、オンブズマンにしても、「任意の調査」にこそ意義があり、市民社会の土俵に立った活動だといえる。
 しかし、官庁の側がろくに調べもしないで文書不存在を通告するとしたら、大きな問題だ。これまで私自身も、県や国などに対し行った情報公開請求において、文書不存在という通告を幾度か受けてきたが、本当は求めた文書が存在しているのに、「ない」と通告されて不開示処分の決定を受けたことがある。
 ひとつは、「雇用助成金」の流用疑惑を調べていたときに、奈良県の商工課という部署が文書不存在による不開示決定を行ったが、後の取材で、同じ商工労働部内の中小企業課という部署にあることが判明した。
 もうひとつは、やはり奈良県の事例になるが、健康安全局のある会議の復命書を開示請求したところ、これも文書不存在よる不開示決定になった。その会議は、確かに開かれたのを知っていたので、おかしいと思い、「なぜ不存在なのか」と問い合わせをした。すると何のことはない。復命書が作成されたのは、私が開示請求をした直後のこと。なるほど、請求をした日付の時点では、ほしい文書は「不存在」なのであるが、開示請求の日から約2週間後に行われた「不開示決定」の時点では、くだんの復命書はれっきとして存在している。
 これではあまりに四角四面な対応である。こういうときには、開示請求をした人にいったん請求を取り下げさせ、数日後に文書が作成されてから請求するように、一言アドバイスしてくれたらそれでいのである。
 ひとたび、文書不存在を通告されたら、住民はもうどうしようもない。鳥取県で片山善博氏が知事をしていたときのことだと思うが、各部署が安易な文書不存在による不開示決定をしないように、知事自らが先頭に立って現場でチェックしたという話を聞いたことがある。

■行政文書の廃棄について

 さて近年、自治体の業務委託において、「プロポーザル方式」という業者選定が行われるようになった。都市計画のマスタープランなどの発注において、落札価格で業者を決めるのでなく、技術提案の内容等で最適な業者と契約するやり方だ。
 工事の総合評価方式と同様、価格だけでは選ばず、技術力などで契約の相手を決めれば、品質の確保などに期待はかかる。しかし、落札価格のように一目瞭然でないだけに、業者選定の過程がいかに透明で、どれだけ開かれているかが試されていると思う。
 私は、奈良県立医大の精神科病棟の新築工事に際して、設計業務の委託で県が採用したプロポーザル方式の発注経緯を調べたことがある。きっかけは、工事中に100カ所近くのおびただしい設計変更が発生したことだ。これは私が行った情報公開請求によって判明したのだが、これほど頻繁に設計変更をするのであれば、あえてプロポーザル方式を導入して設計業者を選定する必要があったのか、疑問だったのだ。この110床の規模の病棟新築であれば、公募型の一般競争入札などで設計業者を選定してもよかったのではないかとも思われた。
 情報公開請求により、設計業務を受注した法人の技術提案書は開示されることになった。これは国の公開制度より開かれているかもしれない。国の工事の分野では、たとえば「総合評価方式」に基づいて提出された技術提案書は、不開示になる公算は大きい。
 ただし、この奈良医大・新築病棟設計のプロポーザル発注に関しては、選定されなかった他の三社の技術提案書は一定期間、閲覧に供されていたというものの、契約する業者を決定した日から二年もたたないうちに廃棄されていた。まだ病棟が完成していないというのに、設計業務を発注した経緯や妥当性について、記者や住民が判断できないという状況であった。
 廃棄してしまったら取り返しがつかない。もし仮に、不適正な契約である疑いが生じたとしても、有力な証拠はすでにないということになる。百歩ゆずって、法人の競争上の地位を保全する目的で、技術書類を秘匿する必要性があったとしても、一定の期間を経たらだれでも閲覧できるようにする、あるいは法人が廃業したら直ちに公開対象の文書にするなどの配慮があってもよい。

■加工されていない業務記録の意義

 本日は冒頭、加工されていない「原情報」が公開される意義について触れた。これは公費の無駄を検証するだけでなく、すぐれた「業務記録」や会議の「復命書」などを通して、福祉や医療の課題を知ることができる。もうだいぶ前になるが、奈良県の精神科救急システムについて、保健所の職員の記録を入手したところ、とても勉強になり、制度の課題を報道するうえでも有力な資料になった。
 これとは反対に、記録としてほとんど意味をなさない復命書や会議録なども閲覧してきた。そのひとつが各市町村で実施した農業委員会の旅行に関する文書だった。先般、橿原市の市民オンブズマンが、市の農業委員会に対する「勤務実態の伴わない月額報酬支給」を違法として提訴したという新聞記事を見たが、私自身も農業委員会の業務には疑問をもっている。古都奈良の市街化調整区域おいて、脱法的な開発に農業委員会が後押しをしているケースを何度か取材してきたからだ。
 したがって、「農業委員会が公費で観光している」という苦情を聞いたときには、「業務の改善には何ら効果のない公費の飲み食いがあったのだろう」と、何の疑いも持たずに調べを進めた。不透明な旅行の経路などは、公開条例を利用して洗い出すことができたが、何分、日本のすぐれた観光地というのは、食にしろ地酒にしろ、地域農業と結びついていないところはないのであり、「旅行は妥当な視察」という当局の強弁がまかり通りそうになる。
 そこで旅行に参加した職員や委員の復命書を取り寄せて検証したころ、農業振興に必要な旅行とは認められず、報道する決め手になった。なぐり書きのような記述もあったし、毎年同じような施設を視察していながら、継続する意義が何ら伝わってこなかった。
 もっとも農業委員会の業務に対して、私自身が批判を続けてきたのは、地域の農業振興への強い期待感の裏返しでもあるのだが。

■建物の補償金額は不開示のままでよいか

 では、今日の私たちの自治体において、情報公開制度の運用に強い影響力をおよぼしている判例について触れてみたい。大阪府、名古屋市、奈良県が2005年から2006年にかけて最高裁で敗訴した土地開発公社関連の訴訟についてである。地権者の氏名および買収価格の公開が適法と判断された。
 その意義はすでに何度か書いたり、話したりしているので、本日は、この最高裁で秘匿を妥当とされた「建物の補償金額」を取り上げ、果たして保護すべき個人情報なのかどうか、みなさまと考えてみたい。
 確かに家の造りというものは、吉野材などの高級な国産材で建てるのか、廉価な外国産材で建てるのかなどで、補償金額に差が出てきて、財産の状況の一部は外部にわかってしまう。これは秘匿すべきプライバシー情報だというのが最高裁の判断だった。
 この判断が今後、固定化して情報公開制度に運用されていくとしたら、行政が秘匿していくことのデメリットというものを考えていかなければならない。昨年、ある市民団体の集会で、元市議が山林で保有していた粗末な小屋を、土地開発公社が法外な価格で補償した疑いがあるという深刻な話を聞いた。最高裁のお墨付きがあるから、開示請求してもなかなか補償金額が表に出てこないという。
 土地開発公社にまつわる闇の用地買収をめぐっては、奈良市議が暗躍した話を拙著『土地開発公社が自治体を侵食する』にくわしく書いたが、土地取引の価格や相手方の氏名は、かなり公開されるようになってきた。ただし、建物の補償金額は、最高裁の判例に沿って秘匿されてしまうケースが多いと思われる。
 その一方で、固定資産税の家屋評価というものが公開性を高めていることは注目される。以前は、個人の財産に関する情報ということで非公開であったが、地方税法が改正され、他人の評価額も一定の条件の下で閲覧できる時代になった。これとて柱や天井などの市場価値が評価に反映され、ある意味で個人の財産の一部が外部に知れるということになる。
 だが、狭い意味のプライバシーにとらわれて非公開にするよりも、公開することで得られる税への信頼、公益というものを天秤にかけて、どちらが妥当なのか、国の審議会などで検討した結果である。
 このように、地方税制にまつわる公開のうねりと整合性をもたせる意味でも、建物の補償金額は公開した方がよいというのが私の考え方だ。何もインターネットにのせて不特定多数の者にばらまく必要はないが、たとえば法務局の登記簿の土地取引情報のように、だれでも閲覧できる状況にしておくことが望ましいと思う。これからの自治体の自主的な判断に期待したい。
 公有地の莫大な不良資産は、用地買収の情報も含め、非公開の慣例が長く続いてきたことが、一因であることを忘れてはならない。

■塩漬け公有地の問題は、議場の「一問一答式」で

 自治体の財政を悪化させた土地開発公社の問題をめぐっては、いわば市民の共同の財布に大きな損害を与えた人たちが責任をとっていない。
 これからは国が奨励する「三セク債」などを活用して、塩漬け土地を一気に解消しようとする動きは加速するだろう。だが、こうした不良資産を解消するには、巨額な公費が投じられるわけであり、まさに無駄の象徴。よって、公社がかかえている遊休地を自治体の一般会計で買い戻す際には、「土地の履歴」などを十分に住民に説明する必要がある。
 もし塩漬けの経緯を一切不問して、買い戻しの予算化を進めようとするのは民意を無視する暴挙であり、そんなときは議場での「一問一答式」などで自治体議員は大いに追及してほしい。これに対し、理事者側が「答えられない」というような事態に陥れば、それだけで重い事実である。そのようすを傍聴したり、議事録で知る住民は、不良資産に対する首長の安易な姿勢をつぶさに知ることになるのだ。
 議会の力は大きい。今日の公社の問題の背景には、情報公開の不十分さもあるが、同時に議会のチェック機能そのものも問われているのだ。
 さて、財政健全化法が施行されたことにより、公社などの自治体の外郭団体の負債は、「将来負担比率」という公の財政指標として算入されるようになった。したがって、この比率に深刻な影響を及ぼしている土地開発公社の情報は、もっと開かれなくてはならない。
 全国の都道府県のうち、情報公開条例の実施機関に地方三公社(道路公社、土地開発公社、住宅供給公社)が入っているのは、およそ三割である。まだまだ少ない。仮に公社が実施機関でなくても、国や県、市町村の関係課は、公社に関する情報をたくさん保有しているので、あきらめる必要はない。しかし、公社を設立したすべて自治体は、一刻も早く公社を実施機関とする公開条例を整備してほしい。

■国が示した外郭団体の新たな公開様式
 
 今日、自治体の外郭団体の不良資産が財政を脅かしていることもあり、国は昨年、第三セクターなどを対象にした「情報公開の様式例」というものを通知してきた。ひと昔前だったら、通達で強制的にやらせたのだろうが、分権一括法の施行により、それはできなくなった。したがって、あくまで国から自治体への例示、アドバイスのたぐいである。
 これによると、「利子補給金」という欄があり、公社などがかえる借金のうち、利払いの一部を、自治体の一般会計から支出している状況が一目でわかる。自治体によっては、不毛な塩漬け土地が生活関連予算を直撃している状況があらわれてくる。
 このような利子補給の状況について国は、公社や三セクへの「公的支援」と位置づけているが、それではちょっと聞こえがよすぎる。自治体によっては、不毛な土地を買いあさった失策のつけとして、よくよく住民に説明する必要もあるだろう。
 こういう状況が積極的に公表されるようになると、文字通り、情報の共有化が進んだということになる。
 国が示したこの様式に基づき、たとえば奈良市の土地開発公社の財務状況を記入すると、200億円余りの「純資産」が計上される。資産といえば聞こえはよいのだが、その大半は、用途さえ決まっていない塩漬け土地である。
 この損益計算書の欄においては、多額の「売上高」が計上されることになるが、これとて、市が時価よりはるかに高い価格で買い戻した金額にすぎず、自治体や公社の努力による売り上げなのかといえば、疑問なことがお多い。「営業外収益」に至っては、先ほど述べた「利子補給金」のことである。
 このように、放漫経営を続けてきた公社であれば、その財務状況を企業会計にだけあてはめるのは少し無理がありそうだ。そこをどう住民に説明していくのか。そこにも情報提供の力が試されている。
 冒頭、情報公開と情報提供は厳格に区別されるべきものという話をしたが、こういう場面では、自治体の情報提供の力が試される。
 ことし、ある研究者の講義を通して、国分寺市役所の広報紙(2009年11月1日付)に、情報提供の先例のようすぐれたな記載があることを知った。それは市の「実質公債費比率」についての解説であるが、総務省の算定ルールが変更されたため、一見、数値は低下しているが、実質的な状況は変わっていないことをはっきりと明示している。さらに、旧来の算定式で同比率を出すと、昨年より悪化していることにも言及している。紙面全体からはわずかなスペースではあるが、グラフを使って解説しているので、一目瞭然だ。情報提供を充実させる確かなヒントがある。

■公文書の管理状況のランキングに期待

 昨年は、情報公開制度と結びつきが深い「公文書管理法」が成立した。これは主に国の文書管理を向上させる法令であるが、法案審議などの過程では、自治体の文書管理もずいぶん課題が多いことが明らかになった。オンブズマンの方々はこれまで、情報公開制度の運用における綿密な調査をもとに、自治体の全国ランキングに取り組み、さらに包括外部監査の通信簿などを公表し、とても意義深いことであるが、一度、文書の管理の状況において、自治体の優劣がわかるランク付けをされてはどうか。
 今日は、「類似団体」といって、似たような財政構造の自治体間で財政指標などの比較が取り組まれており、財政分析には有効な側面もあるが、行革や福祉などのランキングは「類似団体」だけにとらわれず、1700余りのすべての市町村の中で、わがまちはどのくらいの順位で走っているのかを知りたいと私は思う。
 小さい市町村でもすぐれた改革事例は山ほどあるし、逆に大都市ゆえに硬直しがちな慣行もかなりあるだろう。
 そして、あらゆる市町村の情報公開制度が、府県の制度のように「何人も」利用できるものに改善してほしい。たとえば、身近な事例として奈良盆地を例に取ると、どの市町村もみな大和川の流域に当たる。河川の環境という視点では、みなつながっているのであり、一部の自治体の行政情報だけが閉ざされてしまうのはよくない。奈良県の特徴である風致地区においても、複数の自治体にまたがっている区域があり、開発の動向や開発指導行政の現状などを住民が主体的に検証しコントロールしていくうえでは、関係するすべての自治体の情報が開かれてほしいと願う。

■質疑応答権の創設を求めて

 日本の地方自治の制度は、二元代表制といわれる。しかし、市民力というものが備わってはじめて、有効に機能するはずである。先ほど、土地開発公社の問題は、議場での一問一答式の質疑に期待すると申したが、現実には、議会改革が進んでいるところもあれば、そうでないところもある。政治倫理上の課題を残していて、議員自らが己の高潔性を立証する仕組みがないという議会も多い。奈良県では残念ながら2007年、2008年と立て続けに、二人の首長経験者と元市会議長が土地開発公社を舞台にした汚職で、大阪地検特捜部の摘発を受けている。
 そこで、あらためて市民力というものが大事であると痛感する。議会改革や行財政改革を進めるのと同時に、住民一人ひとりの意識や行動が何より、大切である。
 先ほど、奈良医大の精神科病棟の新築工事中に起きた設計変更の濫用について話をしたが、完工後には、閉鎖病棟のガラスを入院患者が割って転落する重傷事故が短期間に二度、相次いで発生した。ガラスの強度に問題はなかったのか、工事中の設計変更による影響はなかったのか。そして何より、最初の事故が発生した時点で再発防止策を講じなかったのは、財産管理の怠慢ではないのか。そんな視点で、県に監査請求をしたところ、あっさり却下されてしまった。奈良医大付属病院は地方独立行政法人に移行したという理由だけで、門前払いにされたのだ。
 知事が設立した独立行政法人は、県の情報公開条例の実施機関であるが、このように監査請求の対象からはずしてしまうのは、いわば住民のコントロール権が縮小したことになる。奈良医大は地域医療の中核を担うものであり、公開と参加の視点からも、見直しを求めたいと思う。
 本日は冒頭に、加工されていない「原情報」を住民が知る意義について述べた。情報公開制度によって入手する行政文書を、住民一人ひとりが主体的に読み解いていくうえでは、不明なカ所や理解が難しいカ所について、「質疑応答権」のようなかたちで「知る権利」を保障する仕組みがつくれないものだろうか。議員さんたちが議場で一般質問できるように、住民も開示された行政文書については、気軽に質問できるような制度があればよいと思う。
 これにより、公費に対する監視がより確かなものになるだけでなく、応答する若手職員らのスキルが高まっていき、住民側からは建設的な提言がどしどし出てくるはずだ。名実ともに、「参加と公開」という理想に近づいていくだろう。

◇…主な参考文献…◇ 
『情報公開ですすめる自治体改革〜取材ノートが明かす活用術』
(浅野詠子著、自治体研究社刊 2010年)
「土地開発の論点〜〈自治体版〉不良債権を考える」(浅野詠子)
(『月刊地方自治職員研修』2009年8月号より)

 

ホームページのトップに戻る